静岡水わさびを取り巻く人々

そば職人

田形 治さん

日本一のそばとわさび

「静岡のわさびは、宝物。鼻へ抜けていくシャープな辛味と、その後にフワリと残る甘い余韻は、料理になくてはならない存在です」。こう語る田形治さんは、静岡市で「手打ち蕎麦 たがた」を営むそば職人だ。全国のそば産地を巡る中で静岡の在来そばと出合い、その豊かな風味と個性に魅了されて以来、静岡に根付く伝統的な食文化を国内外へ発信している。「私の中で、静岡のそばとわさびは日本一。食文化も世界トップクラスだと思います」と田形さん。その噂を聞きつけて、全国から多くのそば通が同店を訪れている。

そばに物語を吹き込む

田形さんが使うわさびは、静岡市の山間部・梅ヶ島で栽培された「青系」と呼ばれる水わさびだ。根茎がしっかりしていて、すりおろすと若葉のように鮮やかな緑色を放つ。舌の上に乗せると、ツンと際立つ辛味が鼻孔へ抜けるが、やがてほのかな甘みを発し、口の中が柔らかな余韻で満たされていく。その印象は鮮烈にして繊細だ。田形さんの薦めで、微量の塩とともに味わうと、甘みが強調される。「これだけのわさびを単なる薬味として使うのは、もったいない。ですから、わさびだけをまず味わい、その余韻とともにそばを味わう食べ方も成立します。つまり、静岡のわさびは、脇役ではありません。主役を張るだけの力があります。言い換えれば、1枚のそばに、多彩なストーリーを描くことができる唯一無二の食材です」と田形さんは力を込める。

静岡の風景を描く力

田形さんは、静岡県産の在来そばを、静岡の水で打ち、静岡の水でしめる。「わさびも静岡の水で育った作物ですから、相性がとても良いのです。両者の調和から生まれる豊かな香りは、静岡の風景を想像させる力を持っています。私は、かねてから、優れた料理や食材には、シーンを描く力があると思っているのですが、静岡のわさびは、まさにそれ。爽やかな風味の中に、清らかな静岡の景色が鮮明に浮かび上がるのは、本物の証です」と田形さんは語る。

わさびツーリズム

豊かな風味が清らかな風景を連想させる静岡のわさび。その背景に広がる深い歴史と食文化は、旅の目的にもなり得る。「そばの里を訪ねながら、わさび田も巡る。そんな“そばツーリズム”、あるいは“わさびツーリズム”も静岡なら成立します。この世界に誇るべき静岡の食文化は、次代にもしっかり継承すべき。私も微力ながら、そのお手伝いをしていきたいと思っています」と田形さん。静岡のわさびが、田形さんのそばともに、日本の宝として評価される日は近い。

手打ち蕎麦 たがた

住所:
静岡市葵区常磐町2-6-7
電話:
054-250-8555
営業時間:
11:30〜14:00(LO13:30)
17:30〜21:30(LO21:00)
定休日:
月曜、日曜の夜